擁壁とは?斜面の土地に家を建てるときは距離や高さを守ろう

新しい家の建築を検討している方の中には、「斜面のある土地が購入候補の1つ」という方もいることでしょう。

そのような場合、斜面に擁壁工事を行わなければならないかもしれません。

ただし、擁壁(ようへき)をつくるにも法律、距離や高さなどの決まり事が存在します。

それらの決まり事を知り、ルールにのっとった擁壁を設置しましょう。

また、擁壁の種類や、すでに擁壁がある土地や家を購入するときのポイントについてもご紹介しますので、そちらも参考にしてください。

斜面につくられる擁壁とは?

擁壁という言葉をご存知でしょうか。

聞きなれないこの言葉に、困惑している方もいるでしょう。

擁壁の読み方は「ようへき」です。

斜面になっている土地に建てられた建物を、がけ崩れなどの崩壊から守るためにつくられます。

斜面のある土地に家を建てるには、土地を平らにしなければなりません。

しかし、土地を平らにすると斜面との間に高低差が生まれてしまいます。

その高低差を何もせずに放っておけば、いずれ崩壊してしまうでしょう。

このようなことにならないために、擁壁で斜面を保護する必要があるのです。

また、斜面でなくても、隣の土地との間に高低差がある場合は擁壁が必要です。

擁壁は、さまざまな決まりのもとつくられることになります。

そこでこれから、擁壁にまつわる法律や距離・高さなどの決まり事についてお話ししていきます。

擁壁には許可申請が必要なケースがある!

斜面のある土地に建てられた家を守るために必要な擁壁ですが、設置に際して許可申請を取らなければならないケースがあります。

そのケースには宅地造成等規制法に基づき、一定の条件が決められています。

宅地造成等規制法とは、雨や風、地震などの自然災害により発生するがけ崩れなどから、家を守るために制定された法律です。

斜面のある土地は、自然災害による被害が起きる懸念が大きいため、宅地造成等規制法により宅地造成工事制区域が指定されていることが多いのです。

宅地造成工事制区域では、擁壁を設置するときに以下のような条件が当てはまる場合、許可申請が必要になります。

・高さ2メートル以上の崖の切土
・高さ1メートル以上の崖の盛土
・切土と盛土を同時に行う時、切土と盛土を合計した高さが2メートルを越える
・切土と盛土をあわせた宅地造成面積が500平方メートル以上

これらの工事を行い擁壁をつくる場合は、都道府県知事などによる許可申請が必要です。

ちなみに、切土とは斜面の土を切って土地を平らにならすことで、盛土は斜面に土を盛って土地を平らにならすことです。

斜面にある土地に家を建てたい場合は、この他にがけ条例についても知っておく必要があります。

がけ条例の基準によっては、擁壁との距離が近すぎる場合、家を建てられないことも考えられます。

家と擁壁の距離を開ける必要がある!?がけ条例とは

がけ条例とは、がけと言われる場所の下に家を建てるときに、守らなければならない条例です。

がけの定義はその土地の都道府県によっても変わるのですが、一般的には30度を超えた斜面のことを指すようです。

このがけ条例によって、擁壁の高さや家との距離が決められることがあります。

例として東京都のがけ条例で考えてみましょう。

東京都では、がけが2メートルを超える場合、その高さの2倍以内の距離に家を建てるときは、2メートル以上の擁壁を設けなければならないと決められています。

もし、このケースで擁壁をつくらないことを選択するのであれば、がけの高さの2倍以上距離を取って家を建てることになります。

しかし、この場合、どれほど広い土地を用意すればよいのでしょう。

また、距離を取った分、その部分の土地が使えず、無駄なスペースとなってしまうことも考えられます。

このようなことを避けるためには、やはり擁壁の設置が必要です。

ただ、擁壁の設置はそれなりの費用がかかるため、家を建てるために斜面のある土地を購入するときは、その点についても考えなければなりません。

擁壁の費用は?高さや距離を守って擁壁を設置しよう!

斜面のある土地を有効に活用するためには、擁壁の設置が必須なケースも多く見られます。

それでは、擁壁をつくるときには、どのような工程でどれくらいの費用が掛かるのでしょうか。

擁壁をつくるときは、まず現場の状況確認が行われます。

この場所に擁壁をつくるとしたら、どれくらいの高さや幅が必要なのか、家を建てる予定の場所と適切な距離が保たれているか、地盤はしっかりしているかなどが調べられます。

調査の結果を申請し、擁壁をつくることが許可されれば、実際の工事へと移行します。

擁壁の工事で懸念材料となるのが、費用の高さです。

一般的な目安としては、4~5万円/1m²となっています。

ただし、この価格も擁壁の面積や、地盤の状態で大幅に変化します。

地盤については、工事を開始してから初めて分かる想定外の出来事もありますので、工事前に提示されていた費用よりも高額になるケースもあります。

場合によっては、1m²あたり数万円から数十万円ほどの追加予算が必要なケースもあるでしょう。

これだけは長く擁壁工事に携わっている業者でも予測できない部分がありますので、あらかじめ工事費用は多めに考えておくようにしてください。

家によく見られる擁壁の種類

一言に擁壁と言っても、その種類はさまざまです。

これからその擁壁の種類をいくつかご紹介します。

●コンクリート式擁壁

現在、多くの場所で普及しているのがコンクリート式擁壁です。

コンクリート式擁壁にも、重力式、反重力式、もたれ式など、さまざまな構造パターンがあるため、現場の状態に合わせて選ぶことができます。

また、コンクリート式擁壁には水抜き穴を設ける必要があります。

水抜き穴とは、擁壁裏面の水の流れをスムーズにして擁壁の損壊を防ぐために、一定の距離を守って擁壁に開けられる穴のことです。

宅地造成等規制法施行令第10条では、「壁面の面積三平方メートル以内ごとに少なくとも一個の内径が七・五センチメートル以上」の水抜き穴が必要と記載されています。

●コンクリートブロック式擁壁

現場でコンクリートを流し込んで工事を行うコンクリート式擁壁と違い、コンクリートブロック式擁壁はコンクリートでつくられたブロックを積み上げて擁壁を設置します。

コンクリートブロック式擁壁も、水抜き穴の設置が必要です。

●石積み式擁壁

その名の通り、石を積み上げてつくられた擁壁です。

昔ながらの家でよく見られる擁壁の種類です。

代表的なものとして、栃木県の大谷町付近で採掘される大谷石を使った擁壁が挙げられます。

水抜き穴の設置は必要なのですが、古い擁壁では水抜き穴が傷んでいたり、そもそも設置されていなかったりするケースも見られます。

高さや距離は大丈夫?擁壁のある家を購入するときのポイント

ここまで、斜面のある土地に家を建てることを想定して、擁壁についてのお話を進めてきました。

しかし、場合によっては、その土地にすでに擁壁が設置されていることもあるでしょう。

そのような土地や家を購入するときは、擁壁の状態をしっかりと確認することが大切です。

まずは、擁壁が適格擁壁か不適格擁壁なのかをチェックしましょう。

昔に設置された擁壁の場合、高さや家との距離など、現在決められている擁壁の基準に満たないことがあります。

もし、不適格擁壁であったなら、擁壁を新しくするために多額の費用が必要になることもあるでしょう。

また、擁壁が設置されている場所も確認しておかなければなりません。

擁壁は敷地の境界線を基準につくられることが多いため、隣人との境界線トラブルに発展するケースも少なくありません。

そのため、擁壁がある土地や家を購入する前に、境界線と擁壁の管理者について確認しておきましょう。

ちなみに、高低差のある擁壁では、上側にあたる土地の所有者が擁壁の管理者となっているケースが一般的です。

とはいえ、その土地によってもさまざまなケースが考えられるので、あらかじめ管理者が誰なのかを知っておきましょう。

擁壁づくりは事前調査をしっかりと行おう!

基準にのっとった擁壁をつくることで、家の安全が守られます。

家の安全が守られるということは、そこに住む人たちの安全も守られるということです。

擁壁についての決まりは、都道府県によっても変わりますので、斜面のある土地を購入する前に確認をしておきましょう。

擁壁の工事は安いものではありませんので、しっかりとした調査を行ったうえ、購入を検討してください。