建築工事、特に鉄骨構造の建築物においてよく使われているのがALC版です。
鉄筋コンクリート構造の場合と比較して、軽量で施工もしやすく使い勝手の良いビル用の建築材料です。
ALC版は、主に鉄骨構造の中高層ビルや工場などで使用されています。
今回は、ALCに関する情報とコンクリートとの違いなどをご紹介します。
そもそもALC版とは何のことでしょう?
ALC(Autoclaved Light-weight Concrete)は軽量気泡コンクリートのことで、気泡を取り込み軽量に作り上げたコンクリート版のことを示しています。
主原料は珪石・セメント・生石灰・発泡剤のアルミ粉末などで、独自製法(高温高圧蒸気養生)で作られた軽量気泡コンクリート建材です。
その特徴は、軽量の上に強度や断熱性も併せ持っていることで、昨今の建築には欠かせない建材です。
ALCとコンクリートの違いは何かという疑問をお持ちの人もいますが、建材の分野から見た場合どちらもコンクリートという建築材料の仲間です。
しかし、建設現場などでの使用状況的に、鉄筋コンクリート構造の建築物と比較をした場合には、大きな違いが出てきます。
鉄筋コンクリート構造における工法では、柱・梁・床・壁・屋根などにコンクリート型の枠を設置して、その中に鉄筋を組んだ後にコンクリートを流し込みます。
それに対してALCは既にパネルになっているので、現場ではめ込んでいくといった作業になります。
流動的で固まっていないコンクリートと既にパネルとなっている成果品のALC版では、施工における違いは歴然です。
ALCと鉄筋コンクリートとの大きな違い①外装材
ALC版が最も頻繁に使用されるのが、鉄骨構造における中・高層建築物の外壁です。
鉄筋コンクリートで外壁を作った場合、その重量の重さが大きなネックとなります。
更には鉄筋コンクリート造の建築物の場合、建設現場における現場施工がほとんどのため、様々な工程での高度な施工技術が必要となります。
それに比べてALC版は軽量なため鉄骨の本体構造にかかる負担も、鉄筋コンクリート造と違いかなり軽減ができます。
そして、接合に使う鋼材も鉄骨と同様の鉄材のため、工場加工で鉄骨本体に取り付けてから現場搬入を行います。
そうすることで、現場施工による精度の低下も防ぐことができます。
鉄骨が立ち上がると直ちに外壁の取り付け工事が行えるので、工程の短縮もできます。
ただALC版は成果品のパネルを外壁に並べていく工法なので、鉄筋コンクリートのように外壁が一体化させることができません。
パネル同士の間は接続用鉄筋とパッキンによって埋められていくのですが、鉄筋コンクリートの外壁との違いとして振動や風圧の影響を受けやすくなっています。
当然にそれらの応力に対しての検討はされているのですが、中高層建築では専用の工法により取付を行うように義務付けられています。
ALCと鉄筋コンクリートとの大きな違い②床材
ALC版は床材としても使用されます。
一般的な鉄骨建築物における床構造は、鉄製の波型プレートを敷き込んでその上に基準値以上の厚みのあるコンクリートを敷設して床として仕上げます。
その際のコンクリートは、普通コンクリートを採用する場合や軽量コンクリートで少しでも軽量化を量る場合など、構造設計者の判断で決定されます。
そして、ALC版を床材として使用することももちろん可能となります。
床のコンクリートを敷設した場合、重量的に建築物の構造体に掛かる負担は大きくなってしまいます。
そのために全体の軽量化を量るため、床のコンクリートに代えてALC版を採用することができるのです。
荷重的な条件の他に、コンクリートとALC版の違いとして顕著に現れるのが工期でしょう。
鉄製の波型プレートを敷き込み、コンクリートを床に敷設した後に強度が確保されるまで結構な時間がかかります。
それに比べてALC版の床の場合は、梁の上にALC版を敷設すれば概ね施工完了ですので、すぐに次の工程に進むことができます。
コンクリートを敷きこむ床とALC版の床に発生する構造的な違いは、床を受ける小梁のスパンです。
ALC版の床の方が鉄製の波型プレートよりも、少しばかり密に小梁を設置する必要があります。
そして、僅かではありますがコンクリートの床よりALC版の方が弾性が大きいため、振動などが床に伝わりやすくなりますが、建物の使用には問題は発生しません。
ALCと鉄筋コンクリートとの大きな違い③屋根材
ビル系の建築物の屋根形状は、陸屋根(歩行できるものと歩行が出来ないものがあります)と勾配がついた屋根の、大きく分けて2種類がよく採用されます。
流動性のあるコンクリート屋根にする場合は、施工上きつい勾配の屋根には使用できません。
それに比べALC版の場合は、コンクリートと違い少々勾配がきつくても屋根の施工は可能です。
ビル系の場合、特に意匠上にこだわった建築物でなければ、塔屋・高架水槽や避難関係などの理由で一般的には陸屋根として設計することが多いです。
陸屋根にした場合の構造は、床とほぼ同様の施工となります。
しかし、屋根と床では想定される設計荷重が違いますので、普通なら陸屋根は一般階の床の重量より少ない荷重で構造計算をします。
ただし、雪の多い地域などでは雪荷重がプラスされて一般階の床より大きな荷重として設計をしなくてはならない場合もあります。
更には、エレベータの関係や高架水槽の大きさなどでも、検討荷重の負担が大きく変化します。
それ故に構造計算によって、ALCを受ける小梁のサイズ決定されスパン寸法の調整なども行います。
ALC版を屋根材として使用する場合、上部をモルタルなどで慣らしてからその上に防水をします。
防水の工法や製品も数多くあるので、設計者の判断で決定されます。
ALCと鉄筋コンクリートとの大きな違い④間仕切り材
建築物の用途が共同住宅などの特殊建築物(建築基準法で定められています)に該当する場合は、界壁と指定される間仕切りの壁も重要となってきます。
建築基準法では、耐火・遮音の基準が厳しく決められており、その基準を満たしていないと検査をクリアできません。
間仕切壁の場合も、鉄筋コンクリート造と鉄骨造では大きな違いがあります。
間仕切壁はその壁自体の構造の他に、下部の床から上部の床までに隙間があってならないことになっています。
上下の床と間仕切壁はピッタリと付いていないといけないのです。
基本的に鉄筋コンクリート造の場合は、柱・梁・床・壁などが繋がっていて一体化されてるので、壁の厚みが確保されていれば問題ありません。
鉄骨造でALC版の間仕切り壁を使う場合、ALC版のみでは上部の床部にピッタリと固定することは非常に難しいです。
ほとんどの場合、間仕切壁としてALC版を取り付けて後に見てみると、ALC版と床部の間に隙間ができています。
ですのでALC版を立てた後に、モルタルなどで隙間を閉鎖する作業を行います。
特に、床材として鉄製の波型プレートを使っている際には、隙間が出来やすいので丁寧な施工が要求されます。
このようにして、基準を満たす間仕切壁の完成となります。
住宅用でも使われているALC版
一般的なALC版としては、厚みが10cm(12cmもあります)で幅60cmが高さが3mを基準とした数タイプとなっています。
もちろん建築物に合わせてカットができるのですが、現場ではできないので、設計段階で高さを決めて工場で加工をします。
しかし、軽量気泡コンクリートといってもやっぱりコンクリートなので、片手で持ち上げたりできるものではありません。
取り付けの金物が鉄材となることから、鉄骨造を主として使用される建材となります。
そんなALC版なのですが、厚みが半分ほどでパネルサイズも一般住宅用に加工されたALC版もあります。
このALC版は、ビスによる取り付けができますので、木造の建築物でも使用ができるということが特徴の建材です。
この施工のしやすさが、一般のALC版との大きな違いとなっています。
材質には、これ以上化学変化を起すことのない非常に安定した鉱物を豊富に含んでいますので、乾燥によって収縮したり熱による膨張もとても小さい安定した建築材料です。
それ故夏の暑さや冬の低温・乾燥に強く、ひび割れ・反り・たわみのような変形が起きにくい材料となっています。
更には、外部環境からくる影響にも極めて強く、大きなメンテナンスを行わなくても長期間に渡り変わらぬ状態を維持できるロングライフの外壁材です。
塗装などのリフォームをすれば、まるで新築したかのように生まれ変わります。
ALC版は軽量で施工しやすい建材
今回は、ALC版に関する情報&鉄筋コンクリートとの違いのお話をさせていただきました。
工場・事務所・共同住宅など、非常に良く使われている建築材料です。
デザイン的には少々劣るところもありますが、施工性・耐力性などに優れているので、まだまだ利用価値の高い材料のようです。
住宅でも使用されるようになり、様々な建築物において活躍しています。