これから事務所を建設しようとしている方の中には、採光についてどのような決まりがあるのか分からない方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では建築基準法における採光についてを詳しくお話ししていきます。
補足として、居室の換気についてもお話しするので、そちらも参考にしてください。
建築基準法における採光とは
日本では、建築基準法にのっとった建物しか建てられません。
建築基準法を守ることで、その建物での私たちの暮らしが安心・安全なものとなるのです。
これは、事務所を建設する方にとっても大切なことでしょう。
この建築基準法ですが、詳細な決まりが定められており、その決まりの中の1つに「採光」が含まれます。
採光とは、窓などの開口部のことをさします。
部屋の中にどの程度の光が入るかを、有効採光面積として数値であらわすのです。
有効採光面積を計算するためには、開口部にあたる窓の面積を測り、採光補正係数を導き出します。
窓からの光を十分感じられたとしても、値として分かりやすくするために数値化する必要があります。
採光補正係数を求めるためには、まず、その土地の用途地域について知っておかなければなりません。
次項で、その用途地域についてお話ししていきましょう。
建築基準法では採光補正係数の求め方が用途地域によって違う!
日本の土地は、建築基準法によりそれぞれ用途地域が決められています。
大きくは「住居系」「工業系」「商業系」の3種類があり、そこから13種類の用途地域に細かく分けられます。
●住居系
・第一種低層住居専用地域
・第二種低層住居専用地域
・第一種中高層住居専用地域
・第二種中高層住居専用地域
・第一種住居地域
・第二種住居地域
・準住居地域
・田園住居地域
●工業系
・準工業地域
・工業地域
・工業専用地域
●商業系
・近隣商業地域
・商業地域
事務所を建設する方の場合は、多くが商業系の中の商業地域を検討しているのではないでしょうか。
土地を選ぶ際は、その土地を選ぶ目的やその後の使い方などを、ある程度決めておく必要があります。
そして、採光補正係数を求めるためには、「住居系」「工業系」「商業系」の3種類で少しずつ数式が変わってきます。
【住居系:D/H×6-1.4】
【工業系:D/H×8-1】
【商業系:D/H×10-1】
Dは隣地境界線までの距離のことで、Hは窓の高さのことです。
開口部となる窓の面積に、この採光補正係数を乗じることで、有効採光面積が求められます。
採光補正係数を求めるときの例外を建築基準法で考える!
採光補正係数が、建築基準法における用途地域によって数式が少し変わるということをお話ししました。
ただ、どの開口部であってもこの数式が当てはまるという訳ではありません。
開口部によっては、一定の緩和措置が受けられる可能性があるということも覚えておきましょう。
まず、開口部にあたる窓が道路に面している場合です。
その場合は、採光補正係数が1未満であっても、1として計算することができます。
次に、隣地境界線との距離が一定以上空いている場合です。
これは、用途地域によって数値が変わります。
「住居系」であれば7メートル以上、「工業系」であれば5メートル以上、「商業系」であれば4メートル以上距離が空いていて、なおかつ採光補正係数の値が1未満であれば、1として計算します。
それから、開口部の窓が天窓の場合は採光補正係数に3を乗ずることができます。
そして、開口部の外側に幅90センチ以上の縁側があったときは、採光補正係数に0.7を乗じます。
もし、採光補正係数がマイナスになった場合は0で、3を超えた数値に関してはすべて3として計算しましょう。
これで、採光補正係数の求め方が一通り分かりました。
ここから有効採光面積を求めることになるのですが、その数値はどの程度が必要なのでしょうか。
有効採光面積として必要な値は、居室の種類によって決められています。
次項では、その居室の種類ごとの採光に必要な開口部の割合についてお話ししますので、事務所がどこに当てはまるのかを考えていきましょう。
事務所はどれに当てはまる?採光の基準が決められている場所
有効採光面積の求め方が分かったら、居室の種類ごとの必要な値を知る必要があります。
居室とは、その場所に長時間にわたって人が存在しうる可能性がある場所のことをさします。
たとえば、住宅のリビングやダイニングなどは居室と言えるでしょう。
住宅にあたっては、床面積に対して1/7以上の有効採光面積が必要になります。
それ以外の場所は、条件によって、1/5から1/10の幅で有効採光面積の割合が必要です。
それ以外の場所としては、建築基準法で次のようなものが挙げられています。
・学校
・病院
・診療所
・寄宿舎
・下宿
・その他これらに類する建築物
これを見ると、事務所という言葉が含まれていないことが分かります。
それでは、事務所を建設する場合は、有効採光面積はどの程度必要なのでしょうか。
この疑問についての答えは、次項でお話ししていきます。
事務所をつくるときに採光は関係ない!?
居室における住宅は、建築基準法で有効採光面積についてしっかりと定められています。
しかし、事務所という言葉を探したとき、有効採光面積の値について断定的に書かれている箇所はありません。
これでは、事務所が有効採光面積を求めるべきなのかが分かりませんよね。
ここで、登場するのが後に建築基準法の但し書きとして制定される「採光のための開口部を設けることを要しない居室」が関わってきます。
この中には、開口部が必要ない居室として事務所の記載が見られます。
このことから、事務所の建設には採光について制限がないことが分かります。
ただ、建築基準法で採光について制限がないといっても、窓などの開口部がない建築物では、快適に過ごせる環境とは言い難いでしょう。
また、それだけでなく、開口部は建築基準法の「換気」の面からも考える必要があります。
採光は関係ない事務所でも換気は必須!
建築基準法では、事務所の採光について具体的な値が決められてはいないというお話をしました。
ただ、換気という面においては、居室の種類に限らず守らなければなりません。
そのため、事務所の建設であっても、換気のための開口部を設ける必要があります。
本来、換気の目的は、建物内で過ごす人の健康を守る意味合いがあります。
空気中には、私たちの体に害を及ぼす物質が漂っているかもしれません。
建物内であれば、シックハウス症候群の原因ともなるホルムアルデヒドがたまってしまうことも考えられるでしょう。
また、空気の対流がないことで、結露の発生や二酸化炭素の増加なども考えられます。
このことから、事務所であっても、そこで人が長時間にわたって過ごすことになるのであれば、十分な換気設備を設けるようにしてください。
建築基準法では、換気のための開口部として、床面積の1/20以上設けることが決められています。
もし、この値に満たない場合は、それに代わる換気設備として、排気筒や空調機の設置を考えましょう。
事務所建設に明確な採光の決まりはない!
事務所を建設する場合、建築基準法の採光にまつわるさまざまな決まりを守る必要はない、と言っていいでしょう。
とはいえ、事務所の快適な空間を考えるのであれば、できれば窓があったほうが望ましいかもしれません。
また、採光について厳しい決まりはないとしても、換気の決まりは守らなければならないので、その点は注意してください。