火災は恐ろしい災害のひとつです。
人が多く集まるような大規模な建築物で火災が起こると、被害は甚大です。
そのため、そのような建築物には一定の耐火性を持たせることが定められています。
大規模な建築物によく使われている鉄骨造であれば熱に強いイメージがありますが、実際はどうなのでしょう。
耐火建築物にするために、何らかの仕様を施さなければならないのでしょうか。
耐火構造や耐火建築物とはどんな仕様の建物?
どんなに気を付けて生活していても、逃れられないのが災害ですが、乾燥する季節になると恐いのが火災です。
火災は人命だけでなく、大切な家屋や家財を一瞬にして灰にしてしまう恐ろしい災害のひとつです。
そのため賃貸住宅などを決める際には、耐火性についても確認しておきたいですよね。
まず、建築基準法で定められている耐火構造・耐火建築物について知っておきましょう。
建築基準法では、柱・屋根・壁を有するものやそれに付随した門や塀、建築設備のことを建築物といいます。
そして建築物には主要構造部という、建物の構造において重要な役割を持つ部分があります。
柱・壁・床・屋根・梁・階段を指すことが多いです。
これを念頭において、耐火構造と耐火建築物を解説します。
耐火構造とは、主要構造部に一定の耐火性能を持つ構造を意味していて、鉄筋コンクリート造・耐火被覆を施した鉄骨造・れんが造などがそれにあたります。
そして、耐火建築物とは主要構造部に耐火性能を持ち、延焼の恐れのある開口部(窓やドア)に火災を遮ることのできる防火設備を持つ仕様の建築物を指します。
つまり、耐火建築物とは耐火構造と防火設備を持つ建築物ということになります。
鉄骨造は熱に強そうだけど実は弱い
しかし、注意してほしいのは前項でお話ししたような耐火構造や耐火建築物であれば燃えないわけではないということです。
耐火構造は、火災の熱に何時間耐えられるかという耐火時間を基準に定められています。
耐火構造は、通常の火災が起きても1~3時間変形や融解、破壊などの損傷を生じないものと定められています。
火災が起こった際、室内の温度は600℃~900℃にまで達するといわれているのです。
条件が重なってしまうと1000℃を超えることもあるそうですよ。
燃えないわけではありませんが、このような高熱に最大3時間も耐えるのですから、耐火構造や耐火建築物はかなり強い耐火性を持っているといってもいいですね。
ところで、鉄骨造の建物は鉄が燃えないことから火災に強いと思われがちですが、実は鉄骨は熱に弱い建築材です。
何も対策もなされていない仕様の鉄骨は、350℃~500℃ほどで軟化し建物の強度を保てなくなってしまいます。
しかし、多くの大規模建築物は構造に鉄骨が使われていますよね。
どのように耐火性能を高めているのでしょう。
鉄骨造だと耐火建築物にならない?
主要構造部に鉄骨が使われている建築物はとても多く、特に高層ビルや工場などの大規模な建築物が思い浮かびます。
大きな建築物なのですから、もちろん耐火対策や防火対策は必要です。
前項で、実は鉄骨は熱に弱いとお話ししましたね。
鉄骨だけでは耐火構造や耐火建築物になりません。
そのため鉄骨造の建築物は階数などに応じて、『耐火被覆』を施すことによって熱に弱い点を補っています。
熱に弱いという鉄骨の弱点を補うために、断熱性の高い素材で鉄骨を覆うことによって耐火性を高めたのが耐火被覆です。
そして、この耐火被覆が施された仕様の鉄骨造が耐火構造となります。
この耐火被覆は耐火性を高めるだけでなく、火災による建物の崩壊も防止することになります。
耐火被覆を施した仕様の鉄骨造
耐火被覆が施された鉄骨造では、建築物の主要構造部の鉄骨に耐火被覆が施されます。
断熱性の高い素材で鉄骨を覆いますが、主にロックウールという人造鉱物繊維が使用されています。
ロックウールは岩綿とも呼ばれ、玄武岩や鉄炉スラグなどに石灰などを混ぜ合わせ、高温で融解して生成されます。
断熱材、吸音材としてすぐれた性能を持ち、かつて発がん性が問題になったアスベストに代わって多くの建築物に使用されていますよ。
そしてロックウールは火に強く、およそ700℃の熱にも耐えて形状を維持できます。
ロックウールの耐火性と鉄骨造の強靭性を合わせることにより、火災に強く倒壊も防止できる建築物が可能になるのです。
この仕様により、耐火構造、耐火建築物とすることができます。
鉄骨造を耐火仕様にするための方法
鉄骨造の建築物を耐火仕様や耐火建築物にするためには、耐火被覆が必須だということがわかりましたね。
鉄骨にロックウールを被覆する方法は、大きく2つあります。
〈吹き付け〉
ロックウール・セメント・水で作られた耐火被覆材量を、専用の吹き付け機を使って鉄骨に吹き付けます。
現場で吹き付ける施工方法のため、どのような形状の鉄骨にも継ぎ目なく被覆することが可能です。
そのため、耐火被覆材量の厚さなどをしっかりと保つことができます。
ロックウールとセメントが主原料のため、軽量で乾燥も速いです。
高層ビルなどでも圧送ができるため、施工性にすぐれています。
〈巻き付け〉
ロックウールを鉄骨に巻き付けた仕様の耐火被覆材です。
あらかじめ工場で耐火被覆されているため、現場で固定するだけの施工となります。
吹き付けと違って養生や乾燥などの作業が必要ないため、ほかの工事と並行して施工することもできます。
また、発塵や残材も少なくすることができるため、工期の短縮や廃材処理の手間を減らすことができるというメリットもあるのです。
このようなことから、鉄骨造の耐火被覆として巻き付け方式が増えていくものと考えられています。
耐火建築物でなければならない建築物と地域がある
耐火被覆を施された仕様の鉄骨造の建築物であれば、住宅や勤務先として安心感が増しますよね。
ただ、すべての鉄骨造の建築物が耐火建築物というわけではありません。
建築基準法によって耐火建築物であることが求められる建築物は、特殊建築物として定められていますので、簡単にご紹介します。
●劇場・映画館・演芸場・観覧場・公会堂・集会場など
●病院・診療所(患者の収容施設があるもの)・ホテル・旅館・下宿・共同住宅・寄宿舎など
●学校・体育館など
●百貨店・マーケット・展示場・キャバレー・カフェー・ナイトクラブ・バー・ダンスホール・遊技場など
●倉庫など
●自動車車庫、自動車修理工場など
人が多く集まる大規模な建築物が多いですね。
このような建築物は耐火建築物、もしくは準耐火建築物でなければなりません。
また、建築物の種類でなく、地域によっても耐火建築物にしなければなければならないことがあります。
防火地域・準防火地域に建てられる建築物です。
住宅密集地などが多く、火災が起こった場合周辺に火が燃え広がりやすいためです。
この地域に建築物を建てる場合、一部例外をのぞいて耐火建築物か準耐火建築物にしなければなりません。
弱点を補い合ってすぐれた建材となる
鉄骨が熱に弱いというのは、意外な事実でしたね。
そして、違う特徴を持つ建材を合わせることで弱点を補い合い、すぐれた建材が生みだされているのです。
普段生活していて、建物の構造や耐火性などを気にすることは少ないかもしれません。
しかし、このような構造を知っておくことが、いざというときにきっと役立ちますよ。